◎ぶらり銀座〜秋葉原 ギャラリーめぐり(2005/6)

 の好きなイラストレーター・和田誠さんの展覧会と、開田裕治さんの展覧会が、もう開催期間を終わろうとしていた。外は梅雨のはしりか、あいにくの雨模様。お金も苦しい。でも目の肥やしだ、いっちょ行ってみよう。展覧会のハシゴだ。

『和田誠グラフィックデザイン』は、ギンザグラフィックギャラリーにて。松坂屋の近く、交詢社通りにある。入場は無料なのが嬉しいけど、日曜・祝日は休館のギャラリー。

 展示スペースは1階と地下1階のツーフロア。こぢんまりとしている。

 この展覧会は、和田誠の本業のグラフィックデザインを回顧する企画。1階には、ポスターと企業や個人などのシンボルマークが展示されている。シンボルマークを見ていると、知っているものがあったり、これも和田さんの仕事なのかと驚かされる。友人関係で仕事を頼まれることも少なくないみたいで、彼の交友の広さを感じさせる。ひきこもりの私には、交友の広さってのがウイークポイントだなぁ。やはり人脈が、人と人のおつき合いが、仕事につながるんだなぁ。

 地下2階は、『週刊文春』の表紙や本の装丁、レコードジャケットのデザインなどを展示。

 和田さんの持論は、グラフィックデザインは限りなく縁の下の力持ちで、自己主張しないことだそうだ。でもどの仕事にも、しっかり和田誠という存在が際だっている。突飛なことをして目立つのは当たり前。でも何もしなくても目立つ人がいるという。和田さんは後者だろう。デザインでもイラストでも、実に多彩な表現方法を駆使しているのに、自分の技術の見せびらかしをまったくしない。それでいて確かにその存在が浮かび上がっている。やはり和田さんは、スターなんだと思う。静かなギャラリーに、スターの輝き。

 和田さんのすごさを感じ、ギャラリーを後にする。雨の銀座も風情があって良い。今日は平日なので、スーツ姿のサラリーマン、OLが多い。平日に外出する時、立派に働いている人たちを観ると、私は少なからず働いていない罪悪感を感じている。就職から逃げてなかったら、私も銀座の晴れやかな通りを歩けるような、社会人になれただろうか。スニーカーの足先が、雨で濡れてきた。

 そんなことを考えながら、秋葉原へ。世界のオタク街。電気街口からすぐのところにオタクに有名なラジオ会館があり、その8階で、開田さんの展覧会をやっている。今回は、ガンダムなどのプラモデルの箱絵(ボックスアートという)の展示。彼の単独の展覧会ではなく、石橋謙一氏、天神英貴氏の3人展。題して『ボックスアートの巨星展2005』。

 ここも入場無料。なぜ無料か、のちに分かる。長机に受付の若い女性一人。中が女性達の話し声でうるさい。それものちに分かる。この騒がしい雰囲気は、大学のマンガ研究会時代に開いたイラスト展を思い出させた。部員達が中でわいわいやって、お客が入りにくい雰囲気が少なからずあったんだが、それに似ていた。和田誠の展覧会では、静かな雰囲気だったので、なおさら耳障り。展示作品に集中できない。

 それでも順路に沿って展示イラストを順に見ていくと、販売というコーナーがあった。声の主は、ここからだった。「お腹すいたー、お昼行こう」と言いながら、数人の若い女性が会場を出て行った(ちなみにこの時すでに午後3時半くらい)。

 入場無料という意味がなんとなく分かった。この展覧会の本当の意味は、絵の展示即売なんだな。だから入場はタダなのかもしれない。そしてがやがやうるさかった女性達は、ディーラーなんだろう。

 ディーラーらしき女性達が出ていって、少し静かになったので、販売コーナーの展示ものぞいてみた。するとススッと若い女性がニコリとして近寄ってきた。しまったディーラーにつかまった。オバケのQ太郎に出てくる、U子みたいなルックスの女性。

 「今日はお仕事お休みですか?」

 大きなお世話だ。ゆっくり絵を見たいだけなんだ。でも本当のことなんて言えないし、言う必要もない相手。

 「ええ、まぁ」

 と愛想笑いで答えると、そこから会話の突破口とばかり、彼女は話をつなげてくる。

 販売コーナーには、開田さんのゴジラの絵があった。またすぐそばにはゴジラ映画で長年告知ポスターなどを手がけるイラストレーター・生頼範義(おうらいのりよし)さんのゴジラ絵もある。私はロボットより怪獣が好きなので、関心を示してしまったところ、そこをこのU子女史は逃さなかった。

 「ライトを当てて、ゆっくり見ませんか。」

と言うやいなや準備を始めた。

 「(絵を)買う気ないですから(いいです)。」

と答えたが、結局椅子に座って話を聞くはめに。

 はやく話終わんないかなと思いつつ、貴重な制作話も聞けた。

 U子女史によれば、開田さんはこのゴジラ絵を、この展示会にむけてを描き下ろした。尊敬する生頼さんと並べて展示されるということで、すごく緊張したそうだ。それで制作中は、生頼さんのゴジラ絵に影響されないために、持っている彼の絵を一切しまって見ないようにしたそうだ。今回生頼さんは、第1作目のゴジラを描いたのだが、それを聞いた開田さんは、それならばとファイナル・ゴジラを描いたそう。とにかく生頼ゴジラにはない、自分らしさを出そうと苦労したようだ。

 またこの開田ゴジラでは、都市をのし歩くゴジラを、一機の自衛隊の戦闘ヘリが旋回して迎え撃っているのだが、このヘリもゴジラ戦が実際にあった場合、配備されるであろう機体を調べてあげて描いたそうだ。

 とにかく一枚の絵に、下取材を入念にして、独自色を出す工夫を凝らすなど、開田さんの密度の濃い制作過程を知ることができた。

 ・・・それはいいが、買う気はない。一枚数十万円もするんだもの。

「さらにお客さんに見せたいものが・・・。」

とU子女史が資料を取りに行こうとしたので、チャンスとばかり、

 「そろそろ失礼します。」

と席を立った。

 そしたらさっきまでニコニコしていたのが、急に態度がそっけなくなるU子。買う気はないと断ったのに、話を続けたのはオマエだろ。なんで断ったオレの方が悪いみたいな空気を作るんだよ!

 気分が悪いまま会場を後にした。もっと筆のタッチなどをじっくり見たかったが、U子のおかげでほとんど見られなかった。和田誠展を観た後の、勉強になりました的充実した気分とは、正反対の展覧会だった。でも開田さんは、好きなイラストレーターだから好印象を持っていたい。だから悪いのはU子、開田さんは悪くない・・・なんて頭の中で繰り返しながら、帰路についた。

 夜に近づいても、まだ雨はやみそうになかった。