◎2005(H17)/7/2(土)

あぁ散財

 には不用意に近づいてはならない場所がある。中野(ブロードウェイ)、神保町、秋葉原である。 

 中野ブロードウェイは、世界的に有名な漫画古書店があるので有名。神保町は、世界に冠たる古書の街だが、アイドルの街でもある。秋葉原は世界のオタク街。アニメ、アイドル、オモチャ、ゲームの街。私の趣味である、アイドル、漫画、オモチャ、特撮のどれかを必ず満たす、三大オタク聖地(?)。であるので、これらの場所に行くと、お財布が無事で済むことはまず無い。大好きなスポットなのだが、必ず散財してしまう、散財地帯なのだ。

 今日は、映画のチケットを買いに東京に出たついでに、どうしても欲しい藤子不二雄の同人誌があったので、取扱店の神保町のN古書店に足を向けた。目的の同人誌以外は買うまいと誓って店内に入った。欲しい同人誌はすぐ見つかったが、もうあたりは漫画古書などの宝の山。すぐに店内を物色し始めた。誓いは、儚(はかな)く物欲の前に屈してしまう。

 いけない!見つけてしまった。『ウルトラの画家 前村教綱ワールド』(幻冬舎コミックス)。この画集は最近の本で、2、800円もするので欲しいなぁと思いつつ今まで手が出なかった。それが、1,260円で売っていた。定価の半額以下だ。お買い得!と思ったが最後、もう手にしていた。

 まだまだ物色していると、また見つけてしまった。『豆宇宙珍品館』(勝川克志/たざわ書房)。勝川克志は、知る人ぞ知るマンガ家さん。昨年『ひらめきラメちゃん』(ふゅーじょんぷろだくと/珈琲文庫)を読んでから好きになって、勝川さんのミニコミなどを購読している。書店で買える彼の本は今のところ、『ひらめきラメちゃん』しかない状態みたいで(雑誌には連載を持っているが)、あとは古書で手に入れるしかない。『豆宇宙珍品館』は、そんな彼の作品集の一つ。初版、帯付きだが、カバーと帯にスレがある。でも900円なら手も出しやすい値段で、我慢できる状態だ。

 古書は出会いが肝心。見送ると、次はいつ出会えるか分からない。誰かに買われてしまうから。だから見つけたら、多少無理をしても買っておくのが良い(らしい)。

 『豆宇宙珍品館』の帯に、こんな言葉が添えられている。

 「勝川克志の作品は、ちょうど古道具屋の店の奥にひっそりとおかれている古時計や古眼鏡のように(中略)ほんのたまにふと店に入ってきた人間だけに目にとまるといった、受け身の作品である」

 この文は、私とこの本の出会いを書いたように思えた。たまたまこの古書店にはいった私が、本棚にひっそりとたたずむこの本を見つけたシチュエーションに似ている。新刊ではなく、古書になっているこの本を。そんなところにも、私とこの本との縁を感じて、購入動機を強くする。

 結局N古書店では、藤子同人誌以外にも上記2冊も買ってしまい、見事散財したのだった。

 気が付くと、もう昼を過ぎていた。昼食は、この地に来る前からあそこに決めていた。神保町では有名なカレー店、『まんてん』である。私は浪人時代この地にあった予備校に行っていたのであるが、その時何回か食べている。その時以来だから、もう14〜5年ぶりに来店する。何度も神保町に行くのだが、店の場所を忘れてしまったりして、なんとなく行かないでいた。

 最近『定食バンザイ!』(今柊二/ちくま文庫)という、全国の定食ガイド・エッセイを読んでいて、そこで『まんてん』が取り上げられいた。それで無性に懐かしくなって、この日の昼は『まんてん』のカツカレーと決めていたのだった。

 少し迷ったものの、白山通りから路地を入ったところに、『まんてん』はあった。店内はコの字型のカウンターのみ。お昼時だから、お客で一杯。オシャレのかけらもない懐かしい飴色の店内には、見事に100パーセント男性客。会社員風、労働者風、学生風という区別があるのみである。

 客はほぼ、カツカレーを注文している。私も迷わずカツカレー。ぶっきらぼうに「カツカレー」と復唱する店のおばさん二人は、リズミカルにカツを揚げ、ご飯とカレーを盛る。

 来ましたよ。長方形のグラタンの皿みたいな器に、ドンとご飯が詰まっていて挽肉入りのカレー、揚げたてカツ、再度カレーがのっている。大盛りでないのに、すごいボリューム。野菜っけなんてなくて(ルーに溶けているのかもしれないが)、バランスのとれた食事なんぞを笑い飛ばすような、高カロリー・一直線のゴッツさ。男らしい。

 カレーパウダー(?)をかけて、醤油をかけて(30歳過ぎたあたりからソース派から醤油派になった)、いただきます、と。・・・うん、これだよ、このコク。油っぽいカツ。懐かしいなぁ。ひたすらカツとカレーの山を切り崩すように食べ進める。

 ごちそうさま。ドシンとお腹にカツとカレーが入った感じ。これで550円だから、安いなぁ。付け合わせの、存在が謎の一口サイズのカップの珈琲をスッと飲んで、店を出た。

 一度食べると少し胃にもたれて、しばらくはいいなというゴツいカレーなんだけど、また無性に食べたくなるような中毒性があると思う。

 神保町もそうだけど、中野も秋葉原も、物欲を満たして散々散財して後悔で心が“胃もたれ状態”になるんだけど、またしばらくすると行きたくなる。『まんてん』のカツカレーのように、中毒性がある街なんだな。

 これ以上物欲を刺激しないように、帰路についた。でもまた性懲りもなく散財しに行くことだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

↑古書店での戦利品。

←カレー店「まんてん」。

↓名物カツカレー。